先日新宿のオリンパスプラザ東京で開催された写真家イルコ・アレクサンダロフ氏のトークショーに参加してきたので、イベントの様子を簡単にレポートしていく。
イルコ氏はクリップオンストロボによるライティングを駆使した独特な世界観のポートレートを撮影することを得意とする写真家で、ライティングのあまりの完成度の高さから「光の魔術師」の異名を持っている。
また、YouTubeでカメラ機材のレビューや写真の撮り方、ライティングのコツなどを解説していることでも知られており、彼のチャンネルは5.6万人というフォトグラファーとしては異例な多さの登録者数を誇り、多くの写真愛好家から強く支持されている。
僕自身はポートレート、特に身内以外の女性のポートレートを撮ることはほとんどしない。しかし、氏のライティング技術はポートレートだけではなく旅行写真などの他の分野でも応用が利くので、是非とも直接お話を聞いてみたいと思ってトークショーに参加させていただいた次第である。
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イルコ氏登壇:機材の軽装具合にびっくり!
さて、そんなイルコ氏のトークショーだが、2回に分けて開催されていた内の前半の回に参加してきた。
開演20分前の11:40に開場するとアナウンスされていたが、僕がオリンパスプラザに到着した10:50の時点でもう既に先客が3名来ており、30分経たない内に30名を超えるほどの長蛇の列になってしまっていた。
それほどまでの観客が一度に訪れることは滅多にないらしく、スタッフの方々が対応のために右往左往していた。後で聞いた話なのだが、この時にプラザに来ていた観客の約半数が初めてプラザを訪問した方だったらしい。
これもイルコ氏の人気と影響力の高さの表れなのだろう。
それからしばらくして開場されたのだが、何とか最前列の席を確保することができた。(これは非常に幸運だった!)
そして定刻になると、待ちに待ったイルコ氏が颯爽と登場した。
いつも撮影に行く時のスタイルのままで来たとのことだが、驚くことにこれがライティング機材も含めた装備の全てらしい。
モノブロックやジェネレーターなどのもっと大規模で大荷物の装備を使っているのかと思っていたが…まさか中型のバックパックとローラーバッグに収まってしまうほどの軽装だとは思わなかった。
数日前の雨の中での撮影で使っていたというソフトボックスがまだ湿っていたという話を交えつつ、バッグの中にどんな風にカメラやライティング機材をパッケージングしているのかも簡単に解説していただけた。
トークショー本編:写真に向ける真摯な姿勢
それからいよいよトークショー本編に突入した。
ショーではイルコ氏が数日前に撮影されて開演直前までにRAW現像していたという最新作を何点か交えつつ、主に作品にまつわるエピソードや写真に対する氏の姿勢についてお話ししていただけた。
ブルガリアから留学生として来日されてから日本で写真を始められたことや、作品撮りに明け暮れた日々のこと、撮影ではモデルさんに対して絶対にネガティブなことは言わないということ、フォトコンテストで某有名写真家に酷評されたこと、それでも自分の撮影スタイルや方向性を信じて努力を重ね続けてこられたこと。
氏の語られたことの全てに言霊が宿っていて、フォトグラファーとして未だ発展途上である自分にとっても非常に励みとなる内容だった。
また、時にユーモアを交えつつ話してくれたことに氏のセンスの高さを感じた。
上の画像は数日前の大雨の時に撮影されたものらしい。真夜中に急に大雨が降って来たので撮影のチャンスだと思ったが、モデルとなってくれる人が誰もいないので、自分自身がモデルになってセルフポートレートを撮影することにしたらしい。
氏はトークショーの中でどんな状況でも作品を生み出せる自分でありたいと何度も話をされていたが、これはそんな氏の写真に対する真摯な姿勢の表れだろう。
OM-D E-M1 Mark Ⅱに対する評価
ちなみに、「どんな状況でも」壊れない安心感が得られることがOM-D E-M1 Mark Ⅱを使う理由の一つだとも話されていた。(さすがにストロボは防水のために袋で包んで使用するとのこと。)
他にも、基本的な画質が優れていることや、システム全体が小型軽量で機動力を高められること、メニューが分かりやすいこと、日本語以外の言語にも設定ができることもオリンパスのカメラを高く評価する理由だと述べられていた。
特に、メニューの言語設定に英語を選べることは、海外向けの解説動画を制作する際に重宝するとのことだ。
その一方で、唯一の弱点としては、シャッター音が静かすぎることを挙げられていた。カメラのシャッター音を撮影時のモデルさんとのコミュニケーションの一つに活用されているらしい。
しかし、OM-D E-M1 Mark Ⅱはシャッター音が比較的静かなため、氏がよく使用する75mmのような望遠レンズを装着した場合は特にシャッター音がモデルさんに届きにくく、コミュニケーションが若干取りにくくなってしまうとのことだ。
僕のような旅行先でのスナップ撮影を主とするフォトグラファーからすると、オリンパスのカメラの静音・消音機構は非常に重宝するのだが、まさかデメリットになることがあるとは思わなかった。
とはいえ、氏はOM-D E-M1 Mark Ⅱを非常に高く評価しているとのことだ。
質疑応答:撮影時にモデルと上手くコミュニケーションをとる秘訣
そのような流れでトークショーが進むと、最後に質疑応答のコーナーが設けられた。
質疑応答コーナーでは、レンズやライティング機材の選び方に関する質問が大半を占めていた。
良い機会だと思い、僕もイルコ氏に撮影でモデルさんとコミュニケーションを上手く取る秘訣について質問させていただいた。
氏の回答は下記の通りだった。
- 何があってもモデルに対してネガティブなことは絶対に言わない。
- ポージングの参考にしてもらうために、モデルにはライトの当たる位置を事前に知らせておく。
- 経験の豊富なモデルさんには作りたい作品のイメージだけを伝えるが、経験の浅いモデルさんには自らポージングなどの実演を踏まえて詳しく伝える。
- 初対面のモデルさんは水に入れない(笑)
最後の回答は氏おなじみのユーモアだが、普段ポートレートをあまり撮ることのない僕からすると、どれも非常にためになるアドバイスだった。
是非今後の撮影のために参考にさせてもらうことにしよう。
サイン会:氏の神対応
トークショーの後にはイルコ氏の書籍『光の魔術師 イルコのポートレート撮影 スペシャルテクニック』の購入者を対象にしたサイン会が開催された。
整理券は会場で販売される限定30冊のみに添えられていたが、何とか入手することができ、無事氏のサインをいただくことができた。
しかし、ここで一つ重大なことを忘れていたことに気付いた。サイン会での氏との会話に集中するあまり、ツーショット写真を撮ってもらうことを忘れてしまったのである。
サイン会の他の参加者が氏とツーショットしている様子を見て、僕も頼んでおけばよかったと後悔した。
しかし、サイン会の列が終了した直後にスタッフの方にダメ元で頼んだところ、氏に快く応じていただくことができた。(感謝感激!)
イルコ氏のトークショーイベントの第1部はこのような流れだった。
第2部ではモデルさんにも登場してもらって撮影を実演されるとのことだったが、悲しいことに氏の情熱に当てられて写欲が湧いてしまい(笑)、急に新宿の街をスナップ撮影したくなったため、残念ながらそちらの方には参加しなかった。
しかしながら、普段ポートレート撮影をあまりしない僕には目から鱗の話ばかりだったので、全体的に大満足なイベントだった。
僕もポートレートを始めてみようかと思った。
追記:関連本の紹介
2019年3月にイルコ氏によるポートレート撮影解説本の続編として『光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング』が発売された。
この本ではイルコ氏直伝のクリップオンストロボを使ったライティングテクニックが学べる。
ストロボの基本から始まって、ストロボをカメラ本体から話して使用するオフカメラライティングや、複数のストロボを遠隔で同時発光させて使用する多灯ライティングなど、ポートレートの撮影で重宝するライティングのテクニックが解説されている。
イルコ氏のポートレート撮影のノウハウをもっと知りたい方や、ライティングのテクニックを習得したい方は、今回の記事で触れた『光の魔術師 イルコのポートレート撮影 スペシャルテクニック』と合わせて読んでみるといいだろう。