一眼カメラと超望遠レンズを入手したら、野鳥の撮影に興味を持つ方も多いだろう。
しかし、いざ野鳥撮影を始めようとしても、手軽に野鳥を観察したり撮影したりできる場所が自宅の周辺になく、活動場所の確保に困ってしまう場合も少なくない。
かくいう僕もその1人だった。
そんな野鳥撮影の初心者で、かつ、千葉県在住の方におすすめしたいのが、市川市の行徳の南にある「行徳近郊緑地」だ。
僕は2025年の年明け早々、この行徳近郊緑地で開催されていた「定例園内観察会」に参加して、様々な種類の野鳥が生活するフィールドを実際に体験してきた。
今回の記事では、多くの野鳥が棲息する行徳近郊緑地の概要と、そこで定期的に実施されている園内の野鳥観察ツアーの様子についてレポートしていく。
野鳥に関して僕は門外漢なのだが、本記事で野鳥の魅力や、野鳥撮影の奥深さを少しでも楽しんでもらえれば嬉しい。

行徳近郊緑地とは?
行徳近郊緑地とは、千葉県市川市の行徳の南方に広がる人工緑地のことを指す。
位置としてはJR市川塩浜駅の目前から少し内陸に向かった所にあり、駅からも見える隔離壁で囲まれた広大な空間の全てが該当エリアになっている。

この場所は内陸部にあった湿地帯や東京湾の埋め立てを進める過程で、野鳥の棲息場所となる緑地を保全するために人工的に造成されたという経緯がある。
つまり、人の手によってゼロから設けられた場所なので、自然本来の緑地ではないのだが、造成から半世紀以上が経った現在は園内に多彩な種類の野鳥が棲息している。
ちなみに、行徳近郊緑地の中には2つのエリアが存在する。
1つは今回のツアーの舞台となる0.56㎢の広さを持つ「行徳鳥獣保護区」で、もう1つは宮内庁が管理する「宮内庁新浜鴨場」だ。
要するに、皇室が所有するカモの御狩場に隣接する形で、鳥類の楽園となる保護区が位置していることになる。
定例園内観察会とは?
宮内庁新浜鴨場と同様、その隣にある行徳鳥獣保護区も普段は一般人の立ち入りは制限されている。
しかし、行徳鳥獣保護区に関してのみ、限定的ながらも園内を見学できる機会が定期的に設けられている。
それが、認定NPO法人の行徳自然ほごくらぶが開催する無料の自然観察ガイドツアー、「定例園内観察会」だ。
開催日時と場所は?
行徳鳥獣保護区の定例園内観察会は、毎週日曜日と祝日の午後という日程で開催される(雨天時は中止)。
受付は当日の13:00から現地で行われ、集合とツアー開始は13:30からになっている。
ツアーの所要時間は約2時間だ。
なお、7月下旬から9月下旬までの夏季に関しては、開催時間が16:00〜17:00に変更される。
詳しい日程については、下記に掲載した行徳自然ほごくらぶ公式サイトにあるイベントカレンダーを確認しておくといいだろう。
また、行徳鳥獣保護区では、今回紹介する定例園内観察会以外にも、毎月第1木曜日の午前に行われる「平日観察会」や、毎月第4土曜日の夕方に行われる「夕暮れ観察会」などのプログラムも開催されているため、併せて確認しておくといいだろう。
定例園内観察会の集合場所は、市川市が運営する行徳野鳥観察舎「あいねすと」の横にある広場になっている。
下記にGoogle Mapを載せておくので、詳しい位置に関してはそちらを確認してほしい。
なお、東京メトロの行徳駅からあいねすとまでの行き方に関しては、本記事で詳しく後述していく。
どんなガイドツアー?
定例園内観察では、所要時間の約2時間をたっぷり使って、行徳自然ほごくらぶ所属の自然ガイドと一緒に行徳鳥獣保護区内の見所を巡る形で進められる。
普段は立ち入りが制限されている保護区の中に入って、多彩な野鳥の観察や撮影を楽しめることで人気だ。
また、園内には野鳥以外にも、クロベンケイガニを始めとする干潟の生物や、植物、タヌキなども棲息している。
野鳥同様、園内の生物にはお触り厳禁だが、多角的な観点から自然との触れ合いを体験できるようになっている。
観察会ツアーの模様については後程詳しくレポートするので、実際の様子を知りたい場合をそちらを確認してもらうといいだろう。
どんな方におすすめ?
行徳鳥獣保護区の定例園内観察会は、下記のような方におすすめだ。
- 自然観察を効率よく楽しみたい方
- 野鳥撮影の初心者
野鳥や干潟の生き物の観察を効率よく楽しみたい方にとって、定例園内観察会は打ってつけの機会になる。
観察会には知識豊富な専門ガイドが同行するため、それまで自然観察の経験が浅かった方でも、季節ごとの見所となる野鳥や生物を無駄なく観察できる。
野鳥の探索(探鳥)に関しても、ガイドが持参したフィールドスコープで特徴的な野鳥を見つけて参加者に見せてくれる。
野鳥観察では観察すべき野鳥を見つけることが最初の難関になるが、この観察会なら初心者でも比較的簡単に観察の醍醐味を味わうことができる。
また、野鳥撮影を始めたばかりの初心者にも定例園内観察会はおすすめだ。
園内には持参したカメラやレンズの持ち込みが許可されているので、観察のついでに見つけた野鳥を撮影することもできる。
保護区内には季節ごとに多彩な種類の野鳥が代わる代わる訪れるため、1年の間に何回か通うだけでも多くの野鳥を記録できるだろう。
ただし、観察会の最中はガイドや他の参加者と一緒に行動する必要がある関係上、園内を単独で自由に歩き回ったり、ひと所に長居して撮影を続けたりすることはできない。
あくまでもガイドに同行して園内を巡るのが前提になっており、その合間に見つけた野鳥を素早くサッと撮影する、というのが基本的なスタイルになる。
観察会中は完全な自由行動にはならない。
しかしそれでも、野鳥が棲息するフィールドの中を実際に巡ることは、野鳥撮影の初心者にとって探鳥や撮影の経験を積むのに貴重な機会となる。
野鳥撮影を始めたいけど、まだまともに探鳥した経験がない方は、ぜひともこの自然観察会をレベル上げの機会として利用するといいだろう。
観察会に用意しておくといいもの
行徳鳥獣保護区の定例園内観察会に参加することを決めたら、次は持っていくものの準備が必要になる。
観察会には下記のものを用意しておくといいだろう。
- ハイキングシューズ or レインブーツ
- 双眼鏡
- カメラ機材
ハイキングシューズorレインブーツ
定例園内観察会の当日が晴れなら、野山を歩き回る時に履くハイキングシューズを用意しておくといいだろう。
それほど本格的なものは必要なく、ローカットやミドルカットのもので十分に事足りるだろう。
ただし、雨上がりの翌日に観察会に参加する場合は、レインブーツを用意しておくことをおすすめする。
当然ながら保護区内にある道は舗装されていないため、雨に濡れると山道のように泥でぬかるむことが多々あるらしい。
その状態の地面を通常のシューズで歩くと、泥が跳ねて足元を汚してしまうので、気兼ねなく観察を楽しむ上でレインブーツは重要となる。
一応、行徳自然ほごくらぶの方で貸し出し用のレインブーツが用意されているらしいが、数に限りがあったり、サイズや衛生面で心配があったりすることもあるため、なるべく自前で用意しておくといいだろう。
ちなみに、観察会のためにレインブーツを購入するなら、下記のようなものがおすすめだ。
これは公益財団法人の「日本野鳥の会」が手掛けた野鳥観察用のレインブーツだ。
薄手のゴムで作られているので履いた状態でも動きやすく、使わないときは折りたたんでコンパクトに持ち歩ける。
雨上がりの定例園内観察会でも活躍してくれるだろう。
双眼鏡
定例園内観察会に用意するべき必須アイテムが双眼鏡だ。
野鳥を観察するにしても撮影するにしても、まずは対象となる野鳥を見つけないことには話にならない。
だが、野鳥は最低でも数10m以上離れた場所におり、体のサイズも小さいため、肉眼だけで探し当てるのはマサイ族でもない限り困難だろう。
そこで役立つお助けアイテムが双眼鏡。
双眼鏡には野鳥観察で下記のようなメリットがある。
- 離れた位置の野鳥も大きく映せる→探鳥精度を大きく向上できる
- 警戒領域の外から観察できる→野鳥の自然な姿が見られる
- 立体視が利用できる→肉眼に近い見え方で観察が楽しめる
要するに、野鳥観察を行う上で双眼鏡は絶対になくてはならないツールなのだ。
レインブーツと同様、一応双眼鏡も行徳自然ほごくらぶの方で貸し出されてはいる。
しかし、数に限りがあったり、性能があまり高くなかったりする場合もあるので、これから野鳥の観察や撮影を長く続けるならできるだけ自前で用意しておきたい。
野鳥撮影用に双眼鏡を探すなら、下記の3つの条件を満たすものを選ぶといいだろう。
- 倍率:8〜10倍
- 対物レンズの口径:25mm以上
- 防水機能あり
これらの条件をクリアしたものなら、行徳鳥獣保護区での定例園内観察会はもちろん、他の場所での野鳥観察でも快適に使っていけるだろう。
おすすめの双眼鏡①
具体的な製品としては、OM SYSTEM(旧オリンパス)が手掛けている下記の双眼鏡「8×25WP II」がおすすめだ。
本格仕様の防水8倍双眼鏡で、手のひらサイズの小型軽量ボディながら上記の3条件を全て満たしているため、野鳥観察用として申し分ない。
また、以前の記事で紹介した超望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」と同時に、初心者向けの野鳥撮影キットとしてOM SYSTEMが薦めているモデルでもある点も心強い。
僕もこの双眼鏡を1台所有しており、近場での野鳥観察や小旅行などで軽快に使用している。

おすすめの双眼鏡②
ちなみに、定例園内観察会に参加した時、僕は次の双眼鏡を持参していた。

OM SYSTEMが手掛ける双眼鏡のフラッグシップモデル「8×42 PRO」だ。
同社のミラーレス一眼用交換レンズと同じコーティング技術が採用されており、42mmという大口径の対物レンズも相まって、高級双眼鏡にふさわしい極上の見え味が堪能できる。
野鳥撮影を始めるに当たって少し奮発して用意した。
交換レンズ1本分と値はやや張るが、価格に見合う以上の観察体験が味わえるので、中上級者や予算に余裕がある方にはこちらをおすすめしたい。
カメラ機材
野鳥を観察するだけなら必要はないが、定例園内観察会で野鳥の撮影も楽しみたいならカメラ機材も用意しておきたい。
下記のような機材を用意しておくといいだろう。
- 一眼カメラ(マイクロフォーサーズorAPS-C)
- 換算800mm相当以上の超望遠ズームレンズ
- 防水コンパクトカメラ
おすすめの一眼カメラ
一眼カメラは野鳥などの動く被写体の撮影に強いものを選びたい。
一眼レフでも可能だが、トラッキングAFやAI被写体検出機能を搭載したミラーレス一眼なら初心者でもより高い確率で撮影に成功できる。
カメラのセンサーサイズに関しては、フルサイズよりも小さなAPS-Cやマイクロフォーサーズの方がおすすめだ。
フルサイズ一眼よりも小型軽量な作りながら、撮影時に使用する焦点距離を延長できるため、遠くの野鳥もより大きく画面に写して記録できる。
なお、場所と観察会の性質上、基本的に保護区内では三脚を活用した撮影は現実的ではないので、強力な手ブレ補正機構を搭載したモデルを用意したい。
ちなみに、僕は本ブログでお馴染みの愛機「OLYMPUS OM-D E-M1 Mark III」で撮影に臨んだ。

ただ、このモデルは2025年4月現在、既に生産完了になっている。
もし今から選ぶなら、本機の機能をより強化した後継モデルである「OM SYSTEM OM-1 Mark II」を検討するといいだろう。
僕の愛機と違って野鳥専用のAI被写体検出機能も完備しているため、初心者でもレンズを野鳥に向けるだけで簡単に素早くピントを合わせられる。
おすすめの超望遠ズームレンズ
一眼カメラに装着するレンズに関しては、フルサイズ換算で800mm相当以上をカバーできる超望遠ズームレンズを選びたい。
前回の記事でも解説したが、野鳥撮影では超望遠域の800mmが標準の焦点距離になる。
どんなに大きくて高画質なレンズであっても、最低条件の800mmすらクリアできないものでは、野鳥撮影には適さない。
また、フィールドでは臨機応変に画角を変えることも多くなるので、経験が浅い内は対応力の高いズームレンズの方が単焦点レンズよりも使いやすいだろう。
ちなみに、僕は前回の記事でも紹介した下記の超望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」をレンタルして持参した。

ただ、このモデルも2025年4月現在、既に生産完了になっている。
もし今から選ぶなら、後継モデルである「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II」を検討するといいだろう。
手ブレ補正がより強化されているので、超望遠域での野鳥撮影時もより安定したEVF映像でフレーミングに臨める。
なお、レンズ単体で800mmをクリアできない場合でも、カメラのデジタルズーム機能や、専用テレコンバーターなどを併用することで対処する方法もあるため、必要に応じて活用するといい。
ただし、定例園内観察会の最中はレンズを交換したり、テレコンを追加したりする時間はあまりない。
テレコンも併用する場合は、保護区内に入る前にあらかじめレンズに装着しておくといいだろう。
おすすめの防水コンパクトカメラ
一眼カメラのサブ機として防水コンパクトカメラも用意しておくと、撮影のバリエーションがより広がる。
定例園内観察会では一眼カメラに超望遠ズームレンズを装着して使うが、ツアー中はレンズを交換する時間があまりない。
野鳥撮影の最中に保護区内の風景や近距離にある植物なども記録したくなった場合、一眼カメラ1台だけでは対応しきれないことが多々ある。
スマホのカメラで対処するという方法もあるが、保護区内でスマホを落下・紛失してしまうと目も当てられないので、できるだけスマホに頼るのは避けたい。
そこで登場するのが、防水コンパクトカメラだ。
光学4〜5倍のズーム倍率を備えたものが多いため、一眼カメラだけでは対応しきれないシーンでも柔軟に記録できる。
加えて、防水性能や耐衝撃性能も完備しているので、保護区のようなアウトドアシーンでも気兼ねなく撮影が楽しめる。
ちなみに、僕は愛用している下記の防水コンパクトカメラ「OM SYSTEM Tough TG-7」をサブ機として持っていった。

最強の防水コンデジとしてアウトドア愛好家にも人気のあるシリーズの最新モデルだ。
光学4倍ズームで多彩なシーンに対応できるほか、優れたマクロ撮影機能で植物の撮影も難なくこなせる。
防水性能などの耐候性もトップクラスのため、OMシリーズのサブ機として申し分ない。
観察会のツアー中、僕はこの防水コンデジをジャケットのポケットに常備して、野鳥以外の生物や風景を撮影するのに活用していた。
状況に応じて一眼カメラと使い分けるといいだろう。
行徳近郊緑地までの行き方
準備ができたら、行徳近郊緑地にある鳥獣保護区に出発しよう。
ここでは東京メトロの行徳駅から行徳近郊緑地までの行き方を案内する。
なお、行徳近郊緑地の敷地はJR市川塩浜駅の目前に広がっているので、単純な直線距離だけで見れば塩浜駅からの方が近いと思うかもしれない。
しかし、定例園内観察会の集合場所である「あいねすと」は敷地の北西にあり、また、塩浜駅から通行できるルートの関係で遠回りになるため、移動に電車を使う場合は行徳駅から向かうことをおすすめする。
そんなわけで、「行徳駅」からスタートだ!

まずは駅から見て南西の方向にある「行徳駅前公園」を目指そう。
駅の改札を出たら右折して駅舎の南側へ出る。
すると、右手側に見える交番の先に行徳駅南口一番街の入口が見えるので入っていこう。

少し進んで南中央商店街通りに出て、サンドラッグが見えたら右折しよう。

さらに進むと「行徳駅前公園」の入口が見える。

公園の中に入ったら、南西にある出口に向かって対角線状に進む。



公園を南西へ抜けたら、右手側にセブンイレブンのある交差点に出る。

横断歩道を渡ってそのまま一区画進むと、緩く蛇行しながら南西方向へ延びる道が右手側に見えてくるだろう。

その道を進んでいくと、「新浜通り」という大きな通りに辿り着くはずだ。


新浜通りの向こう側には、白い大きなマンションと「福栄公園」が見えるはず。信号を渡ってそちら側へ向かおう。
すると「かるがも通り」という看板が右側に見えてくるので、その道を公園に沿ってさらに南西へ進んでいく。

かるがも通りには目立った歩道はないため、公園内にある道を利用するとより安全だ。

かるがも通りと福栄公園を突き当たりまで進んでいくと、右手側には先ほど触れた「宮内庁新浜鴨場」の入口が見えてくる。

ここから先のエリアが行徳近郊緑地の敷地になる。
鴨場の敷地に沿って南へ進んでいくと、いかにも野鳥が棲息していそうな湿原地帯が左手側に広がっているのに気付くだろう。

さらに道を下っていくと、「行徳野鳥観察舎」という青色の看板がある場所に辿り着く。

そしたら、その看板から左折して進もう。
すると、遊歩道のような道に出る。左手側には行徳近郊緑地の敷地を隔離する役割を持つ緑色のフェンスがあるはずだ。

フェンスの向こうに目をやると、時たま野生のタヌキの姿を見かけることもある。

僕も訪問時に大きなタヌキと遭遇したので、この辺りではよくある光景なのだろう。
ここまで来ると目的地はすぐそこだ。行徳近郊緑地の敷地に沿って遊歩道を南へ進んでいく。
途中にはこういったベンチもあるので、少し早めに来て休憩がてら緑地の雰囲気を味わうのもいいかもしれない。

しばらく進んでいくと、2階がガラス張りになった大きな円柱形の建物が見えてくるはず。

ここが目的地であり、今回の自然観察会のスタート地点になる「あいねすと」だ。お疲れ様でした。
行徳駅からあいねすとまでの所要時間は、徒歩だと25〜30分ほどになる。野鳥観察の準備運動がてらゆっくり歩いてくるといいだろう。
あいねすとの入口に目を向けると、下記のような立て看板が配置されていることに気付く。

看板の矢印の先へ目をやると、「観察会 受付はこちら」というのぼりが設置された広場が見える。

この広場が定例園内観察会の集合場所になっている。
設置されたベンチにでも座って集合時間になるまでここで待とう。
行徳野鳥観察舎「あいねすと」
あいねすとの内部は行徳近郊緑地に関する展示館になっている。
双眼鏡や望遠鏡を無料で借りられるサービスも提供されているので、この建物からも野鳥の観察が楽しめる。
あいねすとの前には下記の画像のような風景が広がっており、保護区から飛んできた様々な種類の野鳥を観察できる。

この時はふと緑地に目を向けると、市川塩浜駅前にあるホテルの看板を背景に、ムクドリと思われるつがいが木に止まっていた。

他の野鳥も含めてこういった光景が気軽に楽しめるだろう。
また、あいねすとの内部にはカフェも併設されている。コーヒーや焼き菓子をいただきながらゆったり野鳥観察を楽しめることでも人気だ。
ちなみに、このあいねすとにはトイレも完備されている。
当然ながら鳥獣保護区の中にはトイレは存在しないため、観察会は出発する前にここで用を済ませておくといいだろう。
定例園内観察会の参加定員と案内説明
集合時間が近づくと、行徳自然ほごくらぶのガイドの方々が広場に現れる。
受付名簿に氏名を記入すると観察会に参加できるようになる。
一応、観察会に参加できる定員は20名に設定されている。
この時は20名以上の参加者が集まったと思うが、全員入園できたので、多少多い程度なら問題はないのだろう。
ちなみに、僕はこの時12:30少し過ぎに集合場所の広場に並んだが、一番乗りできたので、急ぐ必要もあまりないと思われる。
なお、双眼鏡やレインブーツが必要な場合は、受付のタイミングでガイドさんに申請すると借りられるので申し出よう。
受付が完了して参加者が集まると、まずは定例園内観察会に関する概要の説明や、現在見られる野鳥の種類、保護区内での注意事項についての案内がある。
特に強調されていたのが、先ほど道中にも登場したタヌキに関する注意喚起だった。
なんでも、餌付けしてタヌキを人に慣れさせてしまうと、餌をもらおうと道路に出た結果、車に轢かれてしまう事案が度々発生してしまうらしい。
それは人間とタヌキの双方にとって不幸な結果に他ならないので、どんな可愛くてもタヌキには絶対に餌を与えないようにとのことだった。
また、タヌキに近づいて手で直接触れることも厳禁と説明されていた。
数年前、保護区内に居住するタヌキたちに、ダニが原因で体毛が抜け落ちる病気が伝染していたらしい。
病気自体は現在もう落ち着いているが、野生動物に手で直に触れることは様々なリスクがあるため、絶対にやめてほしいとのことだった。
そんなこんなで案内説明が終わると、いよいよ鳥獣保護区の中へ向けて出発することになる。
実録:定例園内観察会
それでは、定例園内観察会のスタートだ!
出発の直前に広場にある木を見上げると、そこには大きなオナガが鎮座していたので、すかさず超望遠レンズで捉えた。

幸先の良いスタートになった。
まずはあいねすとから5分ほど歩いて行徳近郊緑地の西側にある鳥獣保護区の入口に向かう。

あいねすとに向かう途中、敷地の左側に橋が見えたと思うが、それを渡った先が鳥獣保護区の入口になっている。

橋を渡ると入園する際の注意点などが簡単に案内され、その後に入園となる。

鳥獣保護区の中に入ると入口の近くに除菌液のトレイが置かれているので、靴ごと足を踏み入れて靴底をしっかり除菌しよう。
鳥獣保護区で生活するのは免疫力が取り立てて強くない普通の野生動物のため、危険な病原菌を持ち込まないようにとの配慮だ。
入口から少し進むと、右手側に大きく開けた干潟のような場所が現れる。

この状態ではまだ目立たないが、水の下にはカニの巣穴が無数に開いており、中でクロベンケイガニなどが暮らしているとのこと。
少し先では、何やらパイプを通して池に水を補給しているような装置が置かれていた。

ガイドさんの話によると、これは園内にある池に真水を補給するための装置なのだとか。
野鳥を始めとする保護区内の野生動物は生育に淡水を必要としているのだが、あいにくこの湾岸地帯には海からの海水しかなかった。
そのため、地下を通して内陸の江戸川などから淡水を引き込むことで解決したらしい。
これはこの鳥獣保護区が人工的に作られた場所であることを示す物証なのだろう。
干潟地帯の先には芦や低木の林が広がっており、その中に設けられた未舗装の道を進んでいく。

保護区内は上記の画像のような景色が所々に見られる。内部構造はちょっとした迷路になっているため、ガイドの案内なしで進むのは困難だろう。
林を抜けると小屋のようなものが見えてきた。

小屋の外壁には箱型の穴が開けられており、その中には中空状の木材が無数に詰め込まられている。

ガイドさんによると、これはハチの棲家にするために作られたものらしい。
小屋から少し進むと大きく開けた平原のような場所に辿り着く。画面の左奥には地下から淡水を引き込む噴水のようなものが置かれている。

ここで自分が立っていた場所が田んぼの畦道のような形をしていることに気付く。

ガイドさんによると、サギなどが生育しやすい環境を整えるために、実際にこの場所で稲を栽培しているのだとか。
訪問時は収穫後の真冬だったため田んぼからは水が抜かれていたが、春にイベントで子供たちを招いて田植えをするらしい。
水が抜かれた田んぼの跡に目をやると、小動物の足跡が点在していた。

これは保護区内で生活するタヌキのものらしい。他にも、園内にはタヌキが家族で利用する糞場も見受けられたので、実際にここでタヌキが生活していることを実感できる。
ふと田んぼの向こう、給水施設のさらに先に目を向けると、餌を探し回るダイサギがいることに気付いた。

早速800mm相当の超望遠ズームレンズで撮影を試みる。鳥にストレスを与えないよう、弧を描くように距離を詰めながら、前景に芦を入れつつ高速連写で切り撮った。

僕にとって本格的な野鳥撮影はこれが完全な初陣だったが、生育環境と共に野鳥の姿を記録する作品らしいものを何とかものにすることができた。
ダイサギがいた場所を後にして先に進むと、左手側に広大な葦原のような場所が急に開ける。

実は、この場所から葦原の先に見える領域こそが皇室が所有する「宮内庁新浜鴨場」になっているのだ。
ここでガイドさんからの突然のアナウンスが出た。宮内庁新浜鴨場の木の上にノスリがいる、と。
手持ちの双眼鏡でよーく目を凝らしてみると、確かにそれっぽい鳥がいたのを確認できた。しかし、如何せん位置が遠すぎた。
試しに超望遠ズームレンズで撮影を試みたが、800mm相当の画角でもほとんど点のようにしか写せない。。。

一応、上の画像の中央部をよく見てみるとノスリを見つけられるかなと。
ちなみに、クロップ機能で中央部をさらに拡大した画像がこちら。

解像度はかなり落ちてしまったが、ノスリの形自体はより認識しやすくなったと思う。
なお、この時はガイドさんがフィールドスコープを設置して見せてくれたのだが、より高倍率だったため、ノスリの観察がより臨場感たっぷりの視界で楽しめた。
野鳥の観察や撮影では800mmでも足りない時があるのだと、僕はこの時に身をもって痛感した。
宮内庁新浜鴨場に隣接した芦原を抜けると、広大な池が現れた。

ここでは主にカワウやカルガモを始めとする水鳥が生活している。

向こう岸にはカワウが子育てをしやすいように作られた人工のコロニーが設けられている。

よく目を凝らすと、周辺の木々が白くなっていることに気付く。これはカワウの群れによる糞害の結果だという。
鳥による糞害は短期的には木を枯死させる原因の1つだが、長期的な視野で考えると、林や森を再生させる養分になるらしい。
なお、この辺りはカワウの鳴き声でかなり騒々しくなっている。しかもカワウが残した大量の糞によって強烈な異臭が風で運ばれる。
実は、高校時代に僕はこの鳥獣保護区に沿って自転車で市川塩浜駅まで通学していたのだが、その時の鳴き声と異臭の謎が初めて解けたような気がした。
飛び回る水鳥たちの観察と撮影を楽しんだ後は、池沿いのルートを辿りながら入口に引き返すことになる。
その途中、水際に目をやると、イソシギの姿が見えた。

かなり小振りなサイズの野鳥なのだが、尾っぽをフリフリしながら歩く姿がとても可愛らしかった。
池を抜けると、先ほども通った芦が群生する地帯に入る。
するとそこには1匹のネコが佇んでいた。

ウチでネコを飼っていることもあり、いつもは可愛いとはしゃぐところなのだが、この鳥獣保護区ではネコはかなり厄介な存在なのだという。
というのも、ネコは野鳥を襲ったり、巣穴にある卵を食べたりしてしまうのだとか。
要するに、この鳥獣保護区ではネコは野鳥にとって天敵以外の何者でもないというわけだ。
野鳥にとって不幸な結果にならないよう、ネコは絶対に室内だけで飼ってくださいとガイドさんは注意喚起されていた。
さらに先へ進むと、最初に訪れた干潟に戻ってきた。

入園から2時間近くが経っていたこともあり、干潟では水位が下がって泥の地面が露出していた。

よく見ると、カニの巣穴が先ほどよりもはっきり見てとれた。
最後に、干潟の先にあった芦に目をやると、1羽のカワセミが狩りをしていることに気付く。

ここでガイドさんはカワセミの雌雄の見分け方を教えてくれた。下の嘴が黒い個体がオス、オレンジ色の個体がメスなのだという。
そんな話を終えた後、最初に通った入口に戻り、保護区を後にした。
保護区を出ると、ガイドさんから保護活動の支援に関する案内や閉会の挨拶などがあり、その後に散会となった。
以上で行徳鳥獣保護区での定例園内観察会は終了だ。
…しかし、直後にカワセミと過酷なバトルを繰り広げることになろうとは、この時の僕はまだ予想だにしていなかった。
野鳥病院の見学
定例園内観察会の後は、是非ともあいねすとの隣にある「野鳥病院」も見学してほしい。

病院はフェンスを通して外から見学が可能だが、見学の際は保護区に出入りした時と同じように設置された除菌トレイで靴底を清めてから進もう。
ここにはケガを負ってしまった野鳥が市川市の内外から集められている。

ケガの原因は様々で、ネコなどの動物に襲われた個体のほか、釣り糸や交通事故など人の手によって負傷した個体も入院している。
傷付いた野鳥の治療に関しては、自然観察会の開催元でもあるNPO法人の行徳自然ほごくらぶのスタッフが主に担当しており、獣医の指導の元で施術しているのだとか。
ケガを治療した後、最終的には野生への復帰を目的に運営されているらしい。
入院中の野鳥たちは治療に専念しているが、生き抜こうとする強い意志を感じた。



ここに来ると人間が与えてしまった野鳥への深刻な影響を目の当たりにさせられるが、同時に人間と野鳥との共存を考えるまたとない機会になるだろう。
おまけ:帰り道でのカワセミ撮影
野鳥病院の見学を終えた後、僕は行徳近郊緑地を後にした。
行徳駅に向かう帰り道の途中、宮内庁新浜鴨場の入口近くでカワセミのオスが狩りをしている場面に偶然遭遇した。

そういえば保護区内ではカワセミをまともに撮影できなかったなと思い返した。
定例園内観察会で少し疲れていたが、もう一息と力を振り絞ってカワセミの撮影にリベンジすることにした。
高速かつトリッキーなカワセミの動きに初心者の僕はかなり翻弄され、800mm相当の超望遠ズームレンズを以てしてもかなりの苦戦をさせられた。

しかし、小魚を捕まえて横木に止まる瞬間、プリ連写機能の「プロキャプチャーモード」で一気に捉えることができた。

野鳥撮影の作品としてはまずまずの出来だが、初めて野鳥の躍動的な瞬間を撮ることができたことに感動していた。
野鳥撮影って楽しいなと強く実感し、僕は帰路に着いたのだった。
総評
今回は市川市のある行徳近郊緑地での野鳥観察ツアー「定例園内観察会」の概要と模様をレポートしてきた。
野鳥の観察や撮影に関するスキルを磨く良い経験にもなるし、野鳥と人間との共存を考える貴重な機会にもなるので、野鳥に興味を持った方は是非一度訪問してみるといいだろう。
僕自身、野鳥と触れ合えるこんなにも素晴らしい場所が故郷の近くにあったとは、住んでいた当時は知る由もなかったので、とても新鮮で楽しい体験をさせてもらった。
保護区内で見られる野鳥や生物は季節によって変わるらしいため、お目当ての超望遠ズームレンズを入手したらまたちょくちょく通ってみようと思う。
