2025年の3月上旬のとある日。
僕は六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催されていた、「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト 掘り起こせ、三千年の謎」という古代エジプト美術の展覧会を訪れていた。
ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト 掘り起こせ、三千年の謎
幼い頃から憧れていた古代エジプトの芸術品の数々を間近で鑑賞することができたので、アカデミックでとても充実した時間を過ごすことができた。
また、この種の展覧会では珍しく、会場内での作品の撮影が一般客にも許可されていたため、芸術品の撮影も存分に楽しむことができた。
…ただ、展覧会での鑑賞中に周囲の来場者のカメラの扱いに関して、1つ気になることがあった。
それによって他の来場者の迷惑になってしまうばかりか、最悪の場合、芸術品の品質にダメージを与えてしまうことも十分にありうる。
そこで今回の記事では、周囲の迷惑になることなく、芸術品の品質も傷付けずに済むように、安心して美術館や博物館での鑑賞や撮影が楽しめるカメラ設定をご案内する。

僕が展覧会の会場内で目撃した光景
会場内ではスマホやカメラを使った撮影の際にフラッシュを発光させてしまう方が少ないながらもいたように思われる。

上記の画像はGoogleの生成AIであるGeminiで生成したものだが、このようなシーンに遭遇することが僕の鑑賞中でも3度ほどもあった。
会場内は薄暗いエリアも多くあったため、おそらく設定の仕方がわからないまま不意にフラッシュを発光させてしまったのだと思うが、これは非常に困ったことだ。
芸術品にフラッシュを発光してはいけない理由
古代エジプトのものに限らず、貴重な芸術品に向けてフラッシュなどの強い光を照射することは絶対に避けたい。
その理由について次の項目で3点に分けて解説しよう。
光化学反応による劣化の促進
フラッシュの光は瞬間的とはいえ非常に強いエネルギーを持っている。
フラッシュにも含まれる光の成分である紫外線や可視光線の一部は、光化学反応によって芸術品に使われる顔料や染料などのインクを退色・変色させる効果を備えている。
加えて、フラッシュの強い光はこの退色や変色などの劣化プロセスを加速させる恐れがあるため、カメラでの撮影時に発光させないように強く注意喚起されているのだ。
熱による影響
芸術品保護の観点から見ると、フラッシュの使用で生じる熱による問題も無視できない。
発光時に瞬間的な熱を発生させるが、漆器や木製品などデリケートな素材で作られた芸術品はこの熱に弱い。
急激な温度変化に晒されることで、表面にひび割れや反りなどの物理的な損傷が起こる可能性が十分にありうるのだ。
来場者への配慮と安全への確保
これは芸術品の保護とは直接関係ないが、周囲への影響も考えたい。
直接の照射や、壁や保護ガラスを介した反射に関係なく、フラッシュによる突然の閃光は目眩しとなって他の来場者の鑑賞体験を著しく損ねる。
特に、今回の古代エジプト展のように、あえて照明が薄暗く落とされたエリアが多い展示会場では、せっかくの雰囲気が台無しになり、鑑賞への集中力も妨げられるだろう。
また、それだけではなく、視覚障害者やてんかん持ちの方にとっては、痙攣など重大な健康リスクとなる可能性もある。
以上のことから、美術館や博物館では撮影時にフラッシュを発光することが強く禁止されているのだ。
フラッシュ発光の禁止
さて、ここからが本題になる。
美術館や博物館でフラッシュを発光させてはいけない理由が、前項まででしっかり理解していただけたと思う。
ここでは、フラッシュの発光を禁止させるための設定の仕方を、実際にカメラの画面を交えて解説しよう。
今回は、僕が主力機として愛用しているOM SYSTEM(旧オリンパス)のミラーレス一眼であるOM-D E-M1 Mark IIIの画面で設定の手順をご案内する。
現行モデルであるOMシリーズやPENシリーズとも基本的な操作手順は共通している。また、他社メーカーのカメラであっても操作に関する考え方はあまり違わないので参考になるはずだ。
①まず始めに十字ボタンの中央にあるOKボタンを押して、現在の主な設定が一覧できる「スーパーコンパネ」を表示させる。

②スーパーコンパネ画面の左側、ISO感度の下に「フラッシュ」のアイコンを選択してOKボタンを押す。
③選択メニューが表示されたら、左から3つ目の「発光禁止」を選んでOKボタンを押す。

これで操作は完了だ。
一般的に、フラッシュを内蔵するカメラでは、周囲がある程度暗くて露出不足と判断すると自動でフラッシュがポップアップして発光するように作られている。
しかし、この設定を行なっておけば、薄暗い美術館や博物館の中で突然フラッシュが発光してしまうトラブルが防げるようになる。
突然のフラッシュ発光によって芸術品を傷付けることなく、また、周囲の来場客の迷惑にもなることもなくなる。
AFイルミネーター点灯のOFF
フラッシュの発光禁止とは別に、美術館や博物館向けに追加で設定しておきたい項目をあと2つ紹介しておこう。
1つが、AFイルミネーター点灯のOFFだ。
今回の古代エジプト展のように薄暗いエリアが多い会場では、AF(オートフォーカス)が効きにくくなる傾向がある。
その際に、赤色の補助光をカメラから照射することで暗い場所でもAFを作動させやすくする機能がAFイルミネーター(AF補助光)だ。
ただ、フラッシュの閃光よりも弱いとはいえ、このAFイルミネーターも光なので展示されている芸術品への影響は否めない。
また、突然赤い光が照射されるため、フラッシュのように他の来場者にとって鑑賞の妨げになることも十分に考えられる。
ちなみに、ミラーレスカメラに関係なく最近のカメラはとても高性能なAFシステムを搭載しているため、美術館や博物館程度の暗さならAFイルミネーターに頼らなくても十分にAFを機能させることはできる。
なので、美術館や博物館の館内で撮影する場合はAFイルミネーター機能をOFFにしておきたい。
では、操作の手順を解説しよう。
①Menuボタンを押してカメラのメニュー画面を表示させる。
②歯車マークのタブ→上から3個目の「A3」→上から3段目の「AFイルミネーター」を選んで、OKボタンを押す。

③選択メニューが出たら「OFF」を選んでOKボタンを押す。

これで先ほどのフラッシュと同様、暗い場所でAFイルミネーターが突然光り出すことはなくなる。
AF電子音のOFF
もう1つの設定項目は、AF電子音のOFF。
AF電子音とは、AFでピント合わせを行う際に鳴る「ピピッ」という電子音のことだ。
普段の撮影でよく耳にすることがある方も多いだろう。
これは芸術品の保護とは全く関係ないが、単純に発せられる電子音が他の来場者の鑑賞の妨げになるというだけの話。
合焦の成否は測距点(AFポイント)の色の変化で把握できるので、この機能はなくてもほとんど困らない。
これまでの項目と同様、美術館や博物館ではOFFにしておくのがおすすめだ。
操作は次の通り。
①Menuボタンを押してカメラのメニュー画面を表示させる。
②歯車マークのタブ→上から12個目の「D4」→最上段の「電子音」を選んで、OKボタンを押す。

③選択メニューが出たら「OFF」を選んでOKボタンを押す。

これでピント合わせの際に不意に電子音が鳴ることはなくなる。
ここまで紹介してきた3つの設定を事前に行なっておけば、美術館や博物館でも安心して鑑賞や撮影が楽しめるようになるだろう。
おまけ:展示作品を綺麗に撮影する機材と設定
最後に、美術館や博物館で展示されている作品を綺麗に撮影できる設定を紹介しよう。
用意しておきたい交換レンズ
まず必要な機材の前提条件として、芸術品の撮影では下記の交換レンズを用意しておこう。
- フルサイズ換算で24〜80mm程度の標準ズームレンズ
- 開放F値がF4よりも明るいものだとベター
標準域に当たる換算40〜60mmの画角では、遠近感が肉眼で見る時と同じように表現されるため、芸術品の形状やサイズを忠実に再現しやすくなる。
芸術品のサイズが大きくて画面内に収まらない場合は、遠近感の誇張を比較的抑えられる換算35mm程度までの広角域を使うといいだろう。
レンズの明るさを決める開放F値に関しては、F4よりも明るいものを選びたい。
今回の古代エジプト展のように薄暗いエリアが多い会場内でも、手ぶれを抑えるのに十分な明るさが得られるので、手持ちでも展示品をしっかりシャープに記録できる。
OM SYSTEMのレンズラインアップでは、こちらのズームレンズが上記の条件をクリアできるだろう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO ↓
もっと明るさを確保したい場合は、必要に応じてこちらの単焦点レンズと使い分けるのもおすすめだ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO ↓
美術館や博物館向けの撮影設定
実際の撮影では該当する項目を次のように設定しておくといいだろう。
- ホワイトバランス:AUTO または AWB
- シャッター速度:1/60秒以上をキープ
- ISO感度:ISO 800以上 または AUTO
美術館や博物館の中では特殊な照明が使われているため、ホワイトバランスを「電球」や「蛍光灯」に設定しても白色を自然に出すのは難しい。
しかし、オートホワイトバランスを意味する「AUTO」や「AWB」を選択しておけば、他のプリセットよりも比較的高い精度で自然な白色が再現できる。
シャッター速度は1/60秒以上の速い状態を確保しておきたい。
撮影時に使用する焦点距離にもよるが、カメラの扱いに多少慣れていないと1/60秒以下の低速シャッターでは手ぶれのリスクが格段に大きくなる。
カメラやレンズの手ぶれ補正によって多少の改善は可能だが、暗所でも撮影の成功率を高めたいなら、1/60秒よりも速いシャッター速度がキープされているかを常に確認しておくことをおすすめする。
そして、ISO感度に関してはISO 800以上の高感度を設定しておきたい。
館内は作品保護の観点から照明が薄暗くなっていることが多々あるので、手ぶれをしっかり防ぐためにはある程度高いISO感度を使用する必要がある。
もしその都度適切な感度を選ぶのが不安な場合は、明るさに応じて自動でISO感度を調節できる「AUTO」を使用するといい。
感度を高くするとノイズが出やすくなるという欠点もあるが、最近の大半のミラーレスカメラはISO 1600以上の高感度でも十分に実用的な画質が得られる。
また、RAW現像時にAIノイズ除去機能を適用すれば、多少の暗所ノイズは吸収できるため、あまり神経質になることはないだろう。
なので、1/60秒よりも速いシャッター速度を確保するのが難しい場合は、躊躇することなく積極的にISO感度を上げてしまうのがおすすめだ。
総評
今回は美術館や博物館での撮影に役立つカメラの設定について解説した。
当記事で紹介した項目を事前に設定しておけば、館内での芸術品の撮影時にカメラの設定で困ることはなくなるだろう。
また、より高いクオリティで芸術品の撮影も楽しめるはずだ。
芸術品の保護や周囲の来場客にもしっかり配慮しつつ、美術館や博物館での鑑賞や撮影を楽しんでもらえればと思う。